台風ルンビアが通り過ぎたセナド広場は、日が沈み下がってゆく気温が、
昼間は重たかった湿度を、気持ちいいものに変えていた。
観光客はまばらになり、あちらこちらでビール瓶を持ちながら、座り込む若者たちが見られた。
昼は、記念写真を撮る旅人たちに囲まれていた噴水は、
今は、静かに横たわり、けだるく水を噴き上げていた。
ビールをもった私は、なぜだか、もう一度聖ポール天主堂に行こうと思った。
数多くの世界遺産をもつマカオ、昼間も訪れたところにまたいくよりも、他の遺産を見た方がいいのかもしれない。
でも、私は夜の教会を見たいと思った。
ポルトガル支配時代からの遺産である敷き詰められた石畳。
湿度の高いぬめった風が、なぜか不快ではなかった。
長い石段の上に、厳かに建つ教会に見える聖ポール天主堂があった。
まさか、壁一枚で何も後ろにはないとは思えない。
生ぬるい風の中、壁だけ残された教会、冷たいビールがその歴史とは違う今にいる自分のことを思い出させる。
壁だけの教会(昼間)
10時は過ぎていただろう。
立ち去りがたい廃墟の教会の魅力にかなり長い時間立ち尽くしていたに違いない。
突然、話しかけられたことに気づいた。
「写真を撮ってあげるよ」
カメラを預けることに不安はあったが、教会の妖しい魅力が警戒心を薄れさせていた。
「ああ、頼むよ」
写真を撮りおわった後も、彼はなかなか立ち去ろうとはせず、色々と話をしてきた。
彼はネパール人だった。
この不思議な哀しさを感じさせる教会の正面に、異常なほどに自己の存在を主張するカジノ、リスボア。
そこに出稼ぎに来ている男だった。
教会からのリスボア
近くからのリスボア
人気のない廃墟の教会の前での出会い1・聖ポール天主堂(マカオ)
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